英国の相続税 (Inheritance Tax)
1) 英国相続税の非課税枠
英国の相続税は、日本の相続税と比較すると、非課税項目について以下の様な幾つかの優遇点があります。
*配偶者が全額相続する場合は、相続資産の多寡に拘わらず非課税
*配偶者以外に相続人がいたり、配偶者以外の方が相続する場合は、非課税枠 (Nil Rate Band)として£325,000が非課税
*子や孫が住宅を含んで相続する場合は、上記の非課税枠(Nil Rate Band) に住宅非課税枠 (Residence Nil Rate Band) として£100,000が追加非課税(この住宅非課税枠(Residence Nil Rate Band) は今後3年間、毎年£25,000ずつ引き上げ)
*最初の配偶者の死亡で、非課税枠(Nil Rate Band)や住宅非課税枠(Residence Nil Rate Band)の未使用残がある場合は、その非課税枠は、死亡配偶者から生存配偶者に引継ぎ可
*政党・チャリティ団体・アマチュアスポーツ団体への寄付は非課税
2)子や孫への住宅非課税枠 (Residence Nil Rate)の引き上げについて
子や孫への住宅を含む相続に対する住宅非課税枠(Residence Nil Rate Band)は、今後3年間毎年£25,000ずつ引き上げられます。 それに非課税枠(Nil Rate Band)と加えると、夫婦から子や孫への相続の非課税枠の合計は以下の様になります。
税年度 | 非課税枠 (Nil Rate Band) |
住宅非課税枠 (Residence Nil Rate Band) |
合計 | 夫婦の場合 (x 2) |
2017-2018 | £325,000 | £100,000 | £425,000 | £850,000 |
2018-2019 | £325,000 | £125,000 | £450,000 | £900,000 |
2019-2020 | £325,000 | £150,000 | £475,000 | £950,000 |
2020-2021 | £325,000 | £175,000 | £500,000 | £1,000,000 |
*住宅非課税枠(Residence Nil Rate)は、相続資産額£2,000,000以下で、住宅、子又は孫への相続の場合のみ適用され、それを超える場合は、減額適用となります。
3)相続税率
相続税率は、上記の非課税枠を超えた分に対して一律40%課税されます。
(例)夫婦2人、子供2人で夫死亡、妻と子供二人が相続
相続資産 | 家£400,000, 金融資産£200,000, 合計£600,000 |
非課税枠 | £325,000 + £100,000 = £425,000 |
課税対象額 | £175,000 |
相続税 | £175,000 x 40% = £70,000 |
4)チャリティ団体への寄付
遺言書で、相続資産の課税対象額の10%以上を英国で登録されたチャリティ団体に寄付すると明記した場合は、その分は非課税となり、更に相続税率は40%から36%に軽減されます。
(例)
通常の相続 | 遺言書に課税対象額の10%を チャリティ団体に寄付すると 明記した場合 |
|
相続資産 | £500,000 | £500,000 |
非課税枠 | £325,000 | £325,000 |
相続課税対象額 | £175,000 | £175,000 |
チャリティ団体への寄付 | 無し | £17,500 |
税額 | £175,000 x 40% = £70,000 |
£157,500 x 36% = £56,700 |
5) 潜在的非課税贈与 (Potentially Exempt Transfer)
日本には贈与税が有りますが、それに相当する税は英国には有りません。 英国では、いつ、誰が、誰に、いくら贈与されて、贈与の時点では課税対象とはならず、贈与者が贈与後7年生存した場合は、その贈与は非課税となります。 もし贈与者が贈与後7年間生存しなかった場合には、贈与後の生存年数によって、以下の様に課税対象となります。
生存年数 | 3年未満 | 3年以上 4年未満 |
4年以上 5年未満 |
5年以上 6年未満 |
6年以上 7年未満 |
7年以上 |
相続税率 | 40% | 32% | 24% | 16% | 8% | 0% |
6) 住宅の贈与
贈与者が、誰かに住宅を生前贈与し、その住宅を明け渡し後7年間生存すれば、その住宅の贈与は非課税扱いとなります。 しかし、贈与者が引続きその住宅に居住する場合は、以下の条件を満たす必要が有ります。
*適正な賃貸料を新たな所有者に支払う事
*必要経費(管理費・光熱費・Council Tax)等を支払う事
*7年間は居住する事
しかし、その住宅が分割譲渡で、贈与者が新たな所有者と同居する場合は賃貸料は支払う必要は有りません。更に、贈与者が、贈与後7年未満で死亡した場合は、7年ルールに従って経過年数に応じて相続税の軽減税率が適用されます。
7) 贈与の年間非課税枠 (Annual Exemption)
毎税年度毎に以下の非課税の贈与が認められています。
*一人に対して£3,000 (1年のみ繰り越し可)
*知人への£1,000以下、孫・曾孫への£2,500以下、子供への£5,000以下の結婚等のお祝いの贈与
*通常のクリスマス・誕生日のお祝い
*高齢者・18歳未満の子供への生活費の支援
*チャリティ団体・政党への寄付金
*£250までの不特定多数への贈与
8) Domicile(定住国) の取扱い
英国の税制では、日本には無いDomicile (定住国) と言う概念があり、それによって所得税や相続税の取扱いが一部異なる場合が有ります。
そもそも、Domicile (定住国)とは、国籍、出生国、税制上の居住国とも異なり、原則父親のDomicile を引継ぎます。 しかし、過去20年間で17年以上英国に居住しているか、又は過去3年以内に英国で定住の為の住居を所有しており、今後も英国に住み続ける意思が有る場合は、英国のDomicileと見做される場合が有ります。そして、そのDomicleによって相続税では以下の2点の取扱いが異なります。
課税対象相続資産 | |
UK domiciled | 全世界に有る相続資産が課税対象 |
Non UK domiciled | 英国に有る相続資産のみが課税対象。 海外資産・外貨建て資産・海外年金等は、英国相続税の対象外。 |
更に、生存配偶者が死亡配偶者から全額相続する場合は、原則非課税ですが、夫々の配偶者のDomicile Statusによって、以下の様に全額非課税では無く、課税対象になる場合もあります。
配偶者間相続の課税関係 | ||
死亡配偶者 | 生存配偶者 | 配偶者間の相続税 |
UK domiciled | UK domiciled | 全額非課税 |
Non UK domiciled | £325,000 + £325,000 = £650,000 非課税 |
|
Non UK domiciled | UK domiciled | 全額非課税 |
Non UK domiciled |
9) 相続税の支払い
相続税は、死後6か月以内に支払い、10年の分割払いも可能です。相続税の支払いが遅れると、金利が請求されます。
以上、英国相続税についてのポイントを記載しましたが、より詳細をお知りになりたい方は、以下のGOV.UK – Inheritance Tax のサイトをご覧ください。
https://www.gov.uk/inheritance-tax
日本の相続税
1) 遺産額
日本の相続税を算出する上での遺産額とは、亡くなられた方(被相続人)所有の土地、建物、有価証券、預貯金、生命保険金、死亡退職金等の財産から借入金、未払金、葬儀費用等の債務を引いたものが遺産額となります。 その際、被相続人が過去3年以内に生前贈与した分も相続財産の一部として含まれます。
2) 基礎控除額(非課税枠)
遺産額から以下の基礎控除額を差し引いて、相続税課税対象額を算出します。基礎控除額に満たない遺産は、非課税となり、申告する必要は有りません。 ここで言う法定相続人数とは、その言葉の通り、法定相続人の人数で、実際に相続する人が何人かではありません。更に、法定相続人ではあるものの、養子や相続放棄した方が居る場合は、相続税の基礎控除額を算出する上で、法定相続人として含めるか否かについては、特例が有りますので、注意が必要です。
平成27年1月1日以降 | |
基礎控除額 (非課税枠) |
3,000万円 + 600万円 x 法定相続人数 |
生命保険金・退職死亡金 | 夫々500万円 x 法定相続人数 |
なお、特例として、配偶者が相続する場合は1億6,000万円、又は配偶者の法定相続分までのどちらか大きい金額までは、非課税です。そして、配偶者特例を受ける為には、その旨申告する必要があります。
3) 相続税率
相続税率は、課税対象額によって異なり、その後異なる税額控除分を差し引き最終相続税額が算出されます。
課税対象額 | 税率 | 税額控除額 |
-1,000万円 | 10% | 0円 |
1,000万円- 3,000万円 | 15% | 50万円 |
3,000万円ー5,000万円 | 20% | 200万円 |
5,000万円- 1億円 |
30% | 700万円 |
1億円-2億円 | 40% | 1,700万円 |
2億円ー3億円 | 45% | 2,700万円 |
3億円ー6億円 | 50% | 4,200万円 |
6億円以上 | 55% | 7,200万円 |
(例)夫婦二人、長女・長男の子供二人の家族で、夫が死亡、1億6,300万円の相続遺産を妻50%, 長女30%, 長男20%で分割相続
相続遺産 | 土地・建物5,000万円, 金融資産7,300万円, 生命保険金4,000万円 合計1億6,300万円 |
非課税枠 | 基礎控除額 3,000万円 + 600万円 x 法定相続人3名 = 4,800万円 生命保険金非課税枠 500万円 x 法定相続人3名 = 1,500万円 合計非課税枠 6,300万円 |
課税対象額 | 相続遺産1億6,300万円 – 非課税額 6,300万円 = 課税対象額 1億円 |
見做し相続税 | 一旦、法定相続割合で分割したと仮定して、見做し相続税を算出 (妻) 5,000万円 x 20% – 200万円 = 800万円 (長女) 2,500万円 x 15% – 50万円 = 325万円 (長男) 2,500万円 x 15% – 50万円 = 325万円 見做し相続税合計 1,450万円 |
実際の相続税 | 見做し相続税合計額を実際の相続割合に応じて、夫々の相続税を算出 (妻) 1,450万円 x 50% = 725万円(配偶者の特別控除で非課税) (長女) 1,450万円 x 30% = 435万円 (長男) 1,450万円 x 20% = 290万円 |
相続税を支払う必要が有る場合は、被相続人が死亡したことを知ってから10か月以内に申告・納税しなければなりません。
日本の相続税について、より詳しくお知りになりたい方は、以下の日本国税庁の相続税に関するサイトをご覧ください。
相続税-No. 4102 相続税がかかる場合
http://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4102.htm
相続税-No. 4132 相続人の範囲と法定相続分
http://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4132.htm
相続税-No. 4152 相続税の計算
http://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4152.htm
相続税-No. 4155 相続税の税率
http://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4155.htm
相続税-No. 4158 配偶者の税額の軽減
http://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4158.htm
英国と日本の相続税の比較
大まかな英国と日本の相続税の比較は以下の通りです。
英国相続税 |
日本相続税 |
|
配偶者に対する優遇 | 配偶者が全資産を相続する場合 全額非課税。更に配偶者の非課税枠未使用残は引継ぎ可。 |
1億6,000万円、又は配偶者の法定相続分までのどちらか大きい金額まで非課税 |
非課税枠 | Nil Rate Band £325,000 Residence Nil Rate Band £100,000 (*) |
3,000万円 + 600万円 x 法定相続人数 (生命保険金・死亡退職金は、500万円 x 法定相続人数) |
相続税率 | 40% | 10%-55% (税額控除有り) |
申告納税 | 相続発生後、執行人が 申告・納税し、相続人に配分 |
相続の執行後、 相続人が申告・納税 |
申告納税期限 | 6か月以内 | 10か月以内 |
(*)住宅非課税枠(Residence Nil Rate Band)は住宅が相続資産に含まれており、子や孫が相続人に含まれている事が条件です。 その非課税枠は、向う3年間、毎年£25,000ずつ引き上げられます。
英国では、相続税率が40%と一律ですが、日本では、課税対象額によって税率が10%から55%と大きく異なります。 従いまして、相続資産の少ない場合は日本の相続税の方が有利で、相続資産が多い場合は英国の相続税の方が有利と言えると思われます。 そして、英国の相続税では、死亡配偶者の非課税枠の未使用残は、生存配偶者が引継ぎ可能で、非課税枠が二倍になり得る点は、大きな魅力です。