英国の相続税

英国の相続税率は40%ですが、その前に以下の様に相続人が配偶者のみか、配偶者以外に相続人が居るか、相続資産に子や孫への住居等の不動産が含まれているか等によって、異なった非課税枠が適用されます。

1) 英国相続税の非課税枠
英国の相続税は、日本の相続税と比較すると、非課税枠について以下の様な幾つかの優遇点があります。

*配偶者のみが全額相続する場合は、相続資産の多寡に拘わらず非課税
*配偶者以外に相続人がいたり、配偶者以外の方が相続する場合は、非課税枠 (Nil Rate Band)として£325kが適用
 *子や孫が住宅を含んで相続する場合は、上記の非課税枠(Nil Rate Band) に住宅非課税枠 (Residence Nil Rate Band) として£175kが追加され、非課税枠の合計は£325k+£175k=£500k
 *最初の配偶者の死亡で、非課税枠(Nil Rate Band)や住宅非課税枠(Residence Nil Rate Band)の未使用残がある場合は、その非課税枠は、死亡配偶者から生存配偶者に引継ぎ可。即ち両親の遺産を子や孫が相続する場合、非課税枠は最大£500k x 2 = £1,000k
*政党・チャリティ団体・アマチュアスポーツ団体への寄付は非課税

2)子や孫への住宅非課税枠 (Residence Nil Rate Band)について
子や孫への住宅を含む相続に対する住宅非課税枠(Residence Nil Rate Band)は、2017年に£100kで新たに設定され、2018年に£125k、2019年に£150k、2020年に£175kと年々増額されて来ました。それに非課税枠(Nil Rate Band)と加えると、夫婦二人から子や孫への相続の非課税枠の合計は以下の様になります。

税年度 非課税枠
(Nil Rate Band)
住宅非課税枠
(Residence Nil Rate Band)
合計 夫婦の場合
(x 2)
2017-2018 £325k £100k £425k £850k
2018-2019 £325k £125k £450k £900k
2019-2020 £325k £150k £475k £950k
2020-2021以降 £325k £175k £500k £1,000k

*住宅非課税枠(Residence Nil Rate Band)は、相続資産額が£2m以下で、住宅を含んだ子又は孫への相続の場合のみ全額適用されます。しかし、相続資産額が£2mを超える場合は、その超えた分の£2に付き£1の減額適用となります。即ち、相続資産額が£2,350k以上の場合は、住宅非課税枠(Residence Nill Rate Band)£175kは全額減額となり、非課税枠は£325kのみとなります。

3)相続税率
相続税率は、上記の非課税枠を超えた分に対して一律40%課税されます。

(例)夫婦2人、子供2人で夫死亡、妻と子供二人が相続

相続資産 家£400k, 金融資産£200k, 合計£600k
非課税枠 £325k + £175k = £500k
課税対象額 £600k – £500k = £100k
相続税 £100k x 40% = £40k

4)チャリティ団体への寄付
遺言書で、相続資産の課税対象額の10%以上を英国で登録されたチャリティ団体に寄付すると明記した場合は、その分は非課税となり、更に相続税率は40%から36%に軽減されます。

(例)

  通常の相続 遺言書に課税対象額の10%を
チャリティ団体に寄付すると
明記した場合
相続資産 £500k £500k
非課税枠 £325k £325k
相続課税対象額 £175k £175k
チャリティ団体への寄付 無し £17.5k
税額 £175k x 40%
= £70k
£157.5k x 36%
= £56.7k

5) 潜在的非課税贈与 (Potentially Exempt Transfer)
日本には贈与税が有りますが、それに相当する税は英国には有りません。 英国では、いつ、誰が、誰に、いくら贈与しても、贈与の時点では課税対象とはなりません。そして、贈与者が贈与後7年以上生存した場合は、その贈与は非課税となります。 もし贈与者が贈与後7年未満で死亡した場合には、その贈与は相続資産と見做され、他の相続資産と合算され非課税枠を超えた分について、贈与後の生存年数によって以下の様に軽減相続税率が適用され、その贈与を受けた人、即ち受贈者が支払います。

生存年数 3年未満 3年以上
4年未満
4年以上
5年未満
5年以上
6年未満
6年以上
7年未満
7年以上
相続税率 40% 32% 24% 16% 8% 0%

6) 住宅の贈与
贈与者が、誰かに住宅を生前贈与し、その住宅を明け渡し後7年間生存すれば、その住宅の贈与は非課税扱いとなります。 しかし、贈与者が引続きその住宅に居住する場合は、以下の条件を満たす必要が有ります。

*適正な賃貸料を新たな所有者に支払う事
*必要経費(管理費・光熱費・Council Tax)等を支払う事
*7年間は居住する事

しかし、その住宅が分割譲渡で、贈与者が新たな所有者と同居する場合は賃貸料は支払う必要は有りません。更に、贈与者が、贈与後7年未満で死亡した場合は、7年ルールに従って経過年数に応じて相続税の軽減税率が適用されます。

7) 贈与の年間非課税枠 (Annual Exemption)
毎税年度(4月6日から翌年の4月5日まで)毎に以下の年間の非課税贈与が認められています。

*一人に対して£3,000 (1年のみ繰り越し可)
*知人への£1,000以下、孫・曾孫への£2,500以下、子供への£5,000以下の結婚等のお祝いの贈与
*通常のクリスマス・誕生日のお祝い
*定期収入の範囲内での高齢者・18歳未満の子供への生活費の支援
*チャリティ団体・政党への寄付金
*£250までの不特定多数への贈与

これはもしその年の贈与が上記の非課税枠を超えた場合はそれが課税対象になり、申告・納税する義務があると言う事では無く、潜在的非課税贈与(PET – Potentially Exempt Transfer)で贈与者が贈与後7年以上生存すれば非課税になります。

とは言え、上記の非課税枠を超えた分が数百ポンドや又は数千ポンドでもそれが後に税務調査の対象になるような事は現実的には無いのではと思いますが、皆さんには上記のルールがある事を良く認識して、節度を持って行動して頂ければと思います。

8) Domicile(定住国) の取扱い
英国の税制では、日本には無いDomicile (定住国) と言う概念があり、それによって所得税や相続税の取扱いが一部異なる場合が有ります。

そもそも、Domicile (定住国)とは、国籍、出生国、税制上の居住国とも異なり、原則父親、又は場合によっては母親のDomicile を引継ぎます。 しかし、過去20年間で15年以上英国に居住しているか、今後も英国に住み続ける意思が有るか等によって、英国のDomicileと見做される場合も有ります。そして、そのDomicleによって相続税では以下の2点の取扱いが異なります。

UK domiciled 全世界に有る相続資産が課税対象
Non UK domiciled 英国に有る相続資産のみが課税対象。
海外資産・外貨建て資産・海外年金等は、英国相続税の対象外。

更に、生存配偶者が死亡配偶者から全額相続する場合は、原則非課税ですが、夫々の配偶者のDomicile Statusによって、以下の様に全額非課税では無く、課税対象になる場合もあります。

配偶者間相続の課税関係
死亡配偶者 生存配偶者 配偶者間の相続税
UK domiciled UK domiciled 全額非課税
Non UK domiciled £325k + £55k
= £380k
非課税
Non UK domiciled UK domiciled  全額非課税
Non UK domiciled

9) 相続税の支払い
相続税は、死後6か月以内に支払い、10年の分割払いも可能です。相続税の支払いが遅れると、金利が請求されます。

以上、英国相続税についてのポイントを記載しましたが、より詳細をお知りになりたい方は、以下のGOV.UK – Inheritance Tax のサイトをご覧ください。

GOV.UK – Inheritance Tax
 https://www.gov.uk/inheritance-tax

Inheritance Tax: jointly owned assets (IHT404)
 https://www.gov.uk/government/publications/inheritance-tax-jointly-owned-assets-iht404

Inheritance Tax: claim to transfer unused nil rate band (IHT402)

 https://www.gov.uk/government/publications/inheritance-tax-claim-to-transfer-unused-nil-rate-band-iht402

Inheritance Tax: main residence nil-rate band and the existing nil-rate band
 https://www.gov.uk/government/publications/inheritance-tax-main-residence-nil-rate-band-and-the-existing-nil-rate-band/inheritance-tax-main-residence-nil-rate-band-and-the-existing-nil-rate-band

Inheritance Tax: Transferring unused residence nil rate band for Inheritance Tax
 https://www.gov.uk/guidance/inheritance-tax-transfer-of-threshold